マグネシウムは、化学的に非常に活性な(イオン化しやすい)金属であり、極めて腐食しやすい材料です。
そのため、基本的には腐食を抑えるための表面処理を行うべき素材となります。
表面処理の大半は化成処理と陽極酸化被膜処理となり、処理後に塗装されることも多い素材です。
・マグネシウムの表面処理の種類
- 化成処理
素材表面に処理液を作用(浸漬または塗布)させることで化学反応を起こし、硫化物や酸化物の被膜を形成させる処理。一般的に耐食性向上と塗料密着性向上のために行われる。また、陽極酸化被膜処理では失われてしまう導電性を確保できることも特徴の一つ。耐食性については、陽極酸化被膜処理と比較すると劣り、一般的に最低限の耐食性を確保する意味合いが強い。
化成処理にはクロム酸系化成処理とノンクロム系化成処理があり、従来は安価で作業性が良く、品質が安定しているクロム酸系の六価クロム酸クロメート(化成処理)が主流であったが、RoHS指令などの環境規制が適用されるようになり、処理液に六価クロムを含むものが使用できなくなってきており、世界的に廃止の方向となっている。そのため、最近のクロム酸系化成処理は三価クロム酸クロメート(化成処理)が主流とはなっているが、そもそもクロム酸を含まないノンクロム系化成処理がトレンドとなっている。
ノンクロム系化成処理にも様々な種類があり、当社ではリン酸塩系のリン酸亜鉛処理の対応をすることが多い。
また、上記以外にもJIS、MIL規格に規定されているもの、処理メーカー独自で開発された処理も存在する。 - 陽極酸化処理
素材を電解液中に浸漬して陽極(アノード)とし、通電することで電気化学的に表面を酸化被膜とする処理。目的としては、化成処理と同様に耐食性向上、塗料密着性向上のほか、染色のためにも行われる。基本的には陽極酸化被膜は導電性を有しない。化成処理と比較してコスト高となるが、高耐食性、高摩耗性を確保できる。
JIS、MILに規定されているもの以外にも処理メーカー独自で開発された処理も存在する。
旧JISではMX5(ガルバニック陽極酸化処理),MX6(Caustic陽極酸化処理,MX11(HAE陽極酸化処理),MX12(A.C./D.C.陽極酸化処理)が規定されている。
上記の中で最も一般的であるMX11(HAE陽極酸化処理)はノンクロム系の処理で、被膜は硬く緻密で耐摩耗性、耐食性に優れるが、アルミの陽極酸化処理(アルマイト)と比較すると遠く及ばない。
その他にもメーカー独自で開発した陽極酸化処理があり、当社では主にそれらを依頼することが多い。種類としては、Mg White(アート1社),Mg Light(アート1社),UBE-5(宇部興産社)がある。
※JIS H8651(マグネシウム及びマグネシウム合金の化成処理及び陽極酸化皮膜)には、化成処理および陽極酸化被膜が併記され、各被膜における耐食性、導電性、平均皮膜厚さと、品質(外観、耐食性、化成被膜の導電性、陽極酸化被膜厚さ)と試験方法についてが規定されている。 - 塗装
他の金属と違って、特に素地(自然被膜)上に直接塗装を施すことは困難なため、塗装を行う際には、原則として下地にブラスト、化成処理あるいは陽極酸化処理を行う。下地さえ整えれば基本的にどのような塗料でも塗装可能。 - 電解めっき/無電解ニッケルめっき
薬液中での腐食が激しいため、亜鉛置換処理と銅メッキで下地を作った上で銅,ニッケル,亜鉛などの各種電解めっきを行う。
無電解めっきに関しては、ニッケルめっきのみ処理可能。 - 蒸着
真空容器(チャンバー)内で原料を蒸発させて、薄い膜を付着させ、耐食性を持たせる。
・マグネシウムの表面処理のパターン
①化成処理のみ
部品の保管、輸送中の腐食防止のための仮防食法(最も安価)
②化成処理+塗装
世に出回る製品(量産品)の大半を占める最も一般的なパターン
③陽極酸化のみ
耐摩耗性、耐食性が求められる場合に適用
④陽極酸化+塗装
厳しい腐食環境で使用される場合に適用
⑤電解めっき
意匠性が求められる場合に適用
⑥無電解めっき
めっき+精度が求められる部品に適用
⑦蒸着
基盤などに適用
組織が不均一なマグネシウム合金に均質、均一に高純度マグネシウムなどの金属材を蒸着させ、耐食性を持たせる
・後記
マグネシウムの表面処理に関する文献を読み漁り、薄く広くわかりやすく解説しました。
次回は具体的な化成処理、陽極酸化処理についてお伝えしたいと思います。